男女別の国・地域別対抗戦トマス・ユーバー杯準決勝、日本男子は、ディフェンディングチャンピオンのデンマークと最終種目までもつれる熱戦を展開。最後は、今大会1試合毎に成長を遂げてきた「第4の男」、常山幹太がチームを決勝へ押し上げた
前日、デンマークのコーチ、選手が BadPaL に語った通り、前々回2014年は日本が3対2で勝利、前回16年はデンマークが3対2で勝利と、トマス杯で接戦を演じてきた強豪2チームの対戦は、今回もどちらが勝ってもおかしくない接戦となった
まず第1シングルスで、アジア選手権覇者の桃田賢斗がヨーロッパ選手権覇者のビクター・アクセルセンをストレートで破る
デンマークのヘッドコーチ、ケネス・ヨナセン氏は前日、準々決勝に勝利した直後、BadPaL の取材に応じ、準決勝で対戦する日本男子の強さを認めた上で、とりわけチームを先導する桃田について、「アジア選手権でのパフォーマンスには驚かされた」と明かし、強い警戒感を示していた
2016年4月インドオープン(当時のスーパーシリーズ)決勝以来の対戦だったが、アクセルセン選手は試合後、BadPaL に対し、「桃田が高いレベルの選手として戻ってきたことを歓迎する。バドミントン界にとっても必要」と答えた。ただこの日の試合に関しては、「(久しぶりに体感する)桃田のプレーではなく、自分のパフォーマンスの悪さに驚いた。次回対戦時にはもっとよい試合を見せたい」と述べ、自身のプレーに納得がいかず、フラストレーションを抱えて試合を終えていたことを隠さなかった
第1ダブルスは、16年対戦時と同じ組み替えペア、マシアス・ボー/マッズ・コンラド・ペターセン組に、前回の早川賢一・遠藤大由組<https://badpal.net/2016/05/20/day-5-of-tuc-japanese-women-into-semis-men-not/>に続いて、今回も日本のエースペア、園田啓悟・嘉村健士組が敗れる
デンマークの組み替えペアは、BadPaL が、前回に続いてまた日本の第1ダブルスを破った点を指摘すると、ニヤリ。「カールステン(・モゲンセン)が参戦できなくなったため、何か手を打つ必要があった。デンマークはその辺り柔軟に対応する」(ボー)と説明した
第2シングルスの西本拳太は、前回デンマーク優勝の立役者ハンス・クリスチャン・ビッティングスに快勝し、日本が再びリードを奪う。ビッティングス選手は前日、BadPaL に対し、「(対戦が予想される)西本を軽視していない。互角の勝負になる」と述べ、十分警戒して臨む考えを示していたが、西本がその上をいくパフォーマンスを見せた
日本が2対1と王手をかけて迎えた第2ダブルス、金子祐樹・井上拓斗組は、第1ゲームを取って先行する。しかし,自分たちの負けはチームの敗戦につながるアナース・スカールプ・ラスムセン/キム・アストルプ・ソレンセン組が気迫あふれるプレーで逆転に成功。決着は最終種目、第3シングルスに持ち越される
この時点で、元世界2位、前回トマス杯優勝メンバーの1人でもある30歳のベテラン、ヤン・ヨルゲンセンを擁するデンマークの優位は明白で、日本の敗戦は濃厚に見えた。常山も、試合前は初対戦となるヨルゲンセンに対処できるか分からなかったと認めた。ところがいざふたを開けてみると、世界ランク34位の21歳は、プレッシャーのかかる状況にも萎縮することなく、のびのびしたプレーを見せ、そうした見方を一掃する。第1ゲーム序盤から先行し、後半追い上げられ逆転を許すも、21-18で振り切る。第2ゲームは7-6までもみ合うが、そこからじりじり点差を広げ、相手に本来のプレーをさせないまま21-11と圧倒。勝利と同時にコートになだれこんできたチームメイトとともに喜びを分かち合った
常山選手は試合後、2対2という緊迫した場面で出番が回ってきたが、同じく2対2で回ってくる可能性のあった今大会3日目(22日)の一次リーグ2試合目、ドイツ戦では「ソワソワしていた」と不安を語っていたのとは対照的に、「やってやる」という前向きな姿勢で試合に入れたと説明した。その上で、「(ベテラン相手に)速さではなくラリーで勝負した。チームの勝ちに貢献でき、チームメイトの笑顔を見ることができ良かった」と、照れくさそうに語った
常山選手に大会前半、ジュニア時代に競い合っていたライバル2人、アンソニー・シニスカ・ギンティンとシー・ユーチがそれぞれインドネシアの第1シングルス、中国の第2シングルスとして今大会に出場してきていることについて意見を聞いたところ、「今は向こうが上。ただそろそろ追いつきたい」と率直な気持ちを述べていた。個人戦の世界ランクには開きがあるが、今回、団体戦ではライバルに劣らぬ活躍を見せ、真価を証明している
日本は、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ前回2016年、準々決勝でデンマークの前に屈した。しかし今回18年は逆に、準決勝でディフェンディングチャンピオンのデンマークを止めた
準決勝もう1つの試合は、今大会第1シードの中国が、第3シードのインドネシアを迎え撃った。第1ダブルスを世界ランク1位のマルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ組に奪われたものの、優位にあるシングルス2つをきっちり取って、4種目目の第2ダブルスを迎える。インドネシアはトマス杯と自国開催のアジア大会を視野に再結成させた元世界チャンピオン、ヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン組に期待をかけるが、気合十分のリュウ・ユーチェン/リ・ジュンフェイ組に最後は圧倒され、最終種目を残して敗退。決勝は、日本対中国となった
◆トマス杯準決勝の結果
①日本(B組1位)3-2デンマーク(D組1位)
【第1シングルス】 桃田賢斗(世界12位)<21-17,21-9>ビクター・アクセルセン(世界2位)
【第1ダブルス】 園田啓悟・嘉村健士(世界6位)<18-21,15-21>マシアス・ボー/マッズ・コンラド・ペターセン(世界ランクなし)
【第2シングルス】 西本拳太(世界14位)<21-19,21-12>ハンス・クリスチャン・ビッティングス(世界25位)
【第2ダブルス】 金子祐樹・井上拓斗(世界11位)<21-17,16-21,15-21>アナース・スカールプ・ラスムセン/キム・アストルプ・ソレンセン(世界9位)
【第3シングルス】常山幹太(世界34位)<21-18,21-11>ヤン・ヨルゲンセン(世界55位)
②中国(A組1位)3-1インドネシア(C組1位)
【第1シングルス】 チェン・ロン(世界5位)<22-20,21-16>アンソニー・シニスカ・ギンティン(世界13位)
【第1ダブルス】 ツァン・ナン/リュウ・チェン(世界3位)<21-12,17-21,15-21>マルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(世界1位)
【第2シングルス】 シー・ユーチ(世界3位)<18-21,21-12,21-15>ジョナタン・クリスティ(世界11位)
【第2ダブルス】 リュウ・ユーチェン/リ・ジュンフェイ(世界4位)<21-17,18-21,21-12>ヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン(世界52位)
【第3シングルス】リン・ダン(世界8位)<打ち切り>イーサン・マウラナ・ムストファ(世界48位)
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日本女子の相手は韓国。前回大会でも同じ準決勝でぶつかり1対3で敗れ、準優勝した2014年に次ぐ2大会連続の決勝進出を阻まれた<https://badpal.net/2016/05/21/day-6-of-tuc-japan-misses-uber-final-with-no-1-pairs-first-loss-in-team-events/>。しかし今回は、大きな大会の優勝者がいならぶ日本のメンバーの充実ぶりが違った
先鋒の山口茜は、昨年2戦2勝で「自分が勝っているイメージがある相手」と語る韓国のエース、ソン・ジヒョンをストレートで降し、日本がまずリード<1対0>
続く福島由紀・廣田彩花組は、ペアを組み替えてきたシン・ソンチャン/キム・ソヨン組の攻撃に十分対応できず敗れ、タイに<1対1>
3種目目、第2シングルスの奥原希望は、昨年のアジア選手権(個人戦)、公式戦1度の対戦で敗れているイ・チャンミと対峙。気負うことなく試合に臨み、快勝して、日本が決勝進出まであと1勝に迫る<2対1>
チームの決勝進出がかかった場面で、満を持して登場してきたのは高橋礼華・松友美佐紀組。現世界ジュニアチャンピオン、イ・ユリム/ペク・ハナ組から簡単に第1ゲームを奪うが、第2ゲーム、14-10とリードした場面から、相手のペースにはまり、ミスも絡んで、まさかの9連続失点。そのままこのゲームを落としてしまう
それでも、ファイナルゲームに入ると立て直してきて、中盤10点差をつけるなど圧倒。最終種目の出番を待つ高橋沙也加が選手入場口付近から見守る中、最後は21-14で勝ち、今大会の前、アジア選手権時に「やってみたかった」(高橋)と話していた、チームの勝敗を決する第2ダブルスの役割をきっちり果たした
高橋・松友組は試合後、「内容はどうあれ、勝てたことが良かった」と強調。あすの決勝に向けては、「自分たちの力を全員でぶつけて、目標にしてきた優勝をつかみに行く」と意気込んだ
ちなみに、決勝でも一番手に起用されることがほぼ確実な山口選手に、もし決勝の相手を選べるとすればどちらがいいか、聞くと、「個人的にはチェン・ユーフェイ(中国)、チーム的にはタイの方が、勝てる可能性が大きいのかな」と答えた
準決勝もうひと試合は、ホスト国タイが、ディフェンディングチャンピオンの中国からシングルス3つを奪い、初のユーバー杯決勝進出を果たした
とりわけ2対2で迎えた第3シングルスで、山口茜と同世代のブサナン・ウンバンルンパンが、ロンドン五輪金メダルのリ・シュエリに完勝。かつて最強を誇った中国女子シングルス陣の「崩壊」をあらためて印象付ける試合内容となった
勝ったタイのコーチ陣は BadPaL に対し、決勝を見据え、「日本は本当に強い。個人戦だと恐らく勝てない相手が多いが、団体戦は別物。タイは準々決勝でインドネシア、準決勝で中国をいずれも3対2の僅差で破り、士気が上がっている」と述べた。カギを握る選手を聞くと、「全員」と答えた
一方、中国は、1984年以降17大会連続で維持してきたファイナリスト(うち優勝14回)の座から、今回、滑り落ちた。ただコーチ陣は、とりわけ、他チームの中心的役割を担う奥原希望、ラッチャノク・インタノンらと同世代の選手が抜け落ちた、若手中心のチームである点を指摘。この歴史的敗戦を、次に向けた経験の機会として受け入れた
◆ユーバー杯準決勝の結果
①日本(A組1位)3-1韓国(C組1位)
【第1シングルス】 山口茜(世界2位)<21-10,21-13>ソン・ジヒョン(世界7位)
【第1ダブルス】 福島由紀・廣田彩花(世界2位)<19-21,15-21>シン・ソンチャン/キム・ソヨン(世界30位)
【第2シングルス】 奥原希望(世界9位)<21-9,21-15>イ・チャンミ(世界16位)
【第2ダブルス】 高橋礼華・松友美佐紀(世界4位)<21-11,17-21,21-14>イ・ユリム/ペク・ハナ(世界19位)
【第3シングルス】 高橋沙也加(世界17位)<打ち切り>アン・セヨン(世界492位)
②中国(D組1位)2-3タイ(B組1位)
【第1シングルス】 チェン・ユーフェイ(世界5位)<21-15,9-21,14-21>ラッチャノク・インタノン(世界4位)
【第1ダブルス】 チェン・チンチェン/ジア・イーファン(世界1位)<21-17,21-20>ラウィンダ・プラジョンジャイ/ジョンコンパン・キッティハラクン(世界8位)
【第2シングルス】 ガオ・ファンジエ(世界32位)<21-19,19-21,12-21>ニチャオン・ジンダポン(世界11位)
【第2ダブルス】 タン・ジンフア/ホワン・ヤチオン(世界260位)<24-26,21-17,21-18>サプシリー・テラッタナチャイ/プティッタ・スパジラクン(世界106位)
【第3シングルス】 リ・シュエリ(世界233位)<11-21,9-21>ブサナン・ウンパンルンパン(世界22位)