世界選手権5日目、各種目の準々決勝が行われ、奥原希望選手、園田啓悟・嘉村健士組、高橋礼華・松友美佐紀組、福島由紀・廣田彩花組が勝ち、この時点で日本勢は前回大会の3つを上回る4つのメダルを確保した。とりわけ女子ダブルスの歴代五輪金メダリストの中で唯一、世界戦のメダルのなかった高橋・松友組は、5度目の挑戦でようやく手が届いた
高橋・松友組はこれまで、◆2011年ベスト16(第15シード)◆13年ベスト32(第3シード)◆14年ベスト16(第3シード)◆15年ベスト16(第1シード)――と、相応の力を持ちながら、世界選手権では一度もベスト8に達したことはなかった。しかし前日、この壁を突破し、この日初めて世界戦の準々決勝に臨んだ
メダルをかけて対戦するのは、中国バオ・イーシン/ユー・シャオハン組。2016年11月香港オープンスーパーシリーズ(SS)で一度だけ対戦し敗れている相手だが、オープニングゲームを21-13と快勝する。続く第2ゲームも開始早々12連続得点を決めるなど、力の差は歴然に見えた。しかし、高橋選手が試合後、「大量リードをしたことで、メダルへの欲が出た」と認めた通り、15-2となったところから点差を詰められ、19点で追いつかれる。その後、5つのマッチポイントを握るもすべて凌がれ、25-27でこのゲームを落としてしまう
ファイナルゲームは勢いを得た中国ペアに主導権を奪われる。しかし後半、14-16とリードされた場面から持ち返して逆転に成功すると、そのまま21-19で逃げ切った
高橋・松友組に試合後、勝てばメダルを意識して試合に入ったか尋ねると、否定せず。その上で、「勝ち方よりも勝つことにこだわった」と答えた
女子ダブルスで五輪の金メダルを獲得したのは次の6ペア。【1992年バルセロナ】韓国ファン・ヘヨン/チョン・ソヨン組【96年アトランタ】中国グ・ジュン/グァ・フェイ組【2000年シドニー】中国グ・ジュン/グァ・フェイ組【04年アテネ】中国ヤン・ウェイ/ツァン・ジウェイ組【08年北京】中国ドゥ・ジン/ユー・ヤン組【12年ロンドン】中国ツァオ・ユンレイ/ティエン・チン組【16年リオデジャネイロ】高橋・松友組――。
このうち、◆ファン・ヘヨン/チョン・ソヨン組(91年銅メダル)◆グ・ジュン/グァ・フェイ組(97年金メダル、99年金メダル)◆ヤン・ウェイ/ツァン・ジウェイ組(05年金メダル、06年銅メダル、07年金メダル)◆ドゥ・ジン/ユー・ヤン組(06年銅メダル、09年銅メダル、10年金メダル)◆ツァオ・ユンレイ/ティエン・チン組(11年銀メダル、13年銅メダル、14年金メダル、15年金メダル)――は世界選手権のメダルも獲得。高橋・松友組だけが「メダルなし」だったが、準決勝に進んだことで、この課題をクリアした
また高橋・松友組は、22歳のユー・シャオハン選手に、バオ選手とのペアで1敗。オウ・ドンニ選手と組んだペアで2015年シンガポールオープンスーパーシリーズ(SS)決勝を含め2敗。ホワン・ヤチオン選手とのペアで6月インドネシアオープンSSプレミアで1敗と、これまで一度も勝ったことがなかった。そのため、今回ようやく勝てたことに手応えを示した
攻撃力のあるユー・シャオハン選手は、2012年世界ジュニア選手権・千葉大会の女子ダブルスで銀メダルを獲得した後、シニアの大会に進み、13年にグランプリ(GP)初制覇。14年はGPゴールドで3度優勝(※混合ダブルスを含めると4度)。15年にはSS初タイトルを手にするなど、順調に世界トップに向け階段を上り始めた。しかし、同年8月のユニバーシアードでドーピング違反。世界バドミントン連盟(BWF)から7カ月(2015年7月~16年2月)の出場停止処分を受け、頓挫した。ただ、処分解除後は、同じくSS優勝経験のあるバオ選手と組み、全英オープンSSプレミアベスト4、チャイナマスターズGPゴールド優勝などの結果を積み重ね、世界ランクで中国4番手に浮上してきた
女子ダブルスでは、福島・廣田組も奮起。世界3位の韓国チャン・イエナ/イ・ソヒ組が相手ながら、直近のオーストラリアンオープンSSで競り勝っていたことが自信になったか、ファイナルゲームに突入する接戦を見事制した
第1ゲームを先取した後、第2ゲームは4つのマッチポイントをつかみながら勝ち切れず、決着はファイナルゲームへ。第2ゲームを落とした流れを受け、終始後手に回る展開となるが、最終盤17-19から4連続得点を決め逆転勝利で、高橋・松友組に次いでこの種目、日本勢2つ目となるメダルを引き寄せた
福島・廣田組は試合後、「(メダルを)それほど意識して試合に入ったわけではないが、先にメダルを確定させた日本選手のつくった流れに乗りたかった」と笑顔で語った
日本からはもうひとペア、米元小春・田中志穂組が準々決勝のコートに立ち、前々回銀メダル、前回銅メダルの強豪、デンマークのクリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール組に挑んだ。この日の日本勢の中で最も厳しい戦いが予想されたが、第1ゲーム、デンマークペアが攻勢をかけ、5-21と文字通り圧倒される。第2ゲームは中盤、15-9とリードしながら、16点で追いつかれるが、ここから振り切った
勝敗を決するファイナルゲーム、米元・田中組は世界2位に引けを取らないプレーで1点を取り合う接戦を演じる。さらに終盤、17-19の劣勢から追いついた後、デンマークペアが握ったマッチポイント2つを凌ぎ、逆にマッチポイントを続けて3つ握ってみせた。しかし決め切れず、相手方に渡った次のマッチポイント1つは回避したものの、25-27で力尽きた
リオ五輪銀メダリストを最終盤、ギリギリまで追い詰めながら、勝てなかった米元・田中組。1時間24分の激闘を戦い終え、「メダルを狙っていただけに悔しい」と、思いを吐き出した
結果として、女子ダブルスのベスト4には、高橋・松友組と福島・廣田組の2ペアが入り、この種目、1977年スウェーデン・マルメ大会で優勝した栂野尾悦子・植野恵美子組以来の決勝進出に挑む
女子シングルスの奥原選手は、シングルスでは男子の中国リン・ダン選手しか成し遂げていない世界選手権3連覇を目指すスペインのカロリナ・マリン選手と顔を合わせた。今年3度目の対戦はファイナルゲームまでもつれる接戦となったが、1時間30分を越える試合を制したのは奥原選手。この時点で、1977年マルメ大会銅メダルの故湯木博恵氏、2014年コペンハーゲン大会銅メダルの三谷美菜津選手に続く、日本3人目の世界選手権女子シングルスメダリストとなった
奥原選手に試合後、リオ五輪金メダリストで世界選手権2連覇中のマリン選手を破ってメダルを確保したことの意義を問うと、女子シングルスは実力拮抗で「誰にもチャンスがある」と指摘し、そのこと自体を特別視することはなかった。それより、「準々決勝までに(体力などが)削られて満足のいくパフォーマンスができなかったリオ五輪の準決勝よりもいい試合がしたい」とし、視線は早くも次に向いていた
女子シングルではほかに、前日、第1シードの山口茜選手をストレートで破ったチェン・ユーフェイ選手が、この日はタイのラッチャノク・インタノン選手とフルゲームを戦い勝利。現世界ジュニアチャンピオンが元世界ジュニアチャンピオン2人を連破し、中国3番手ながらメダルを確定させた
また、前回大会銀メダルのサイナ・ネワル選手が開催国スコットランド期待のカースティ・ギルモア選手を退け、中国スン・ユ選手を破った2013、14年銅メダルのプサルラ・ヴェンカタ・シンドゥ選手とともに、インドにこの種目2つのメダルをもたらした
男子ダブルスでは、日本男子唯一の勝ち残り、園田・嘉村組が、過去の対戦成績3勝4敗と負け越しているデンマークのマッズ・コンラド・ペターセン/マッズ・ピーラー・コルディング組を大事な一戦でしっかり抑え込んでストレート勝ち。第4シードからきっちりベスト4入りを果たし、大会前、「メダルを持ち帰る」と口にした自らの言葉を有言実行した
園田・嘉村組はここまで、主戦場とする上位大会SSで平田典靖・橋本博且組の1回を上回る優勝2回、年末開催の世界上位8ペアによるSSファイナルで早川賢一・遠藤大由組と並ぶ準優勝1回、という明確な結果を残している。加えて世界選手権でもこの時点で、2007年クアラルンプール大会銅メダルの坂本修一・池田信太郎組、15年ジャカルタ大会銅メダルの早川・遠藤組と肩を並べ、総合的に見て、実績で幾多の先輩ペアを越えた
それでも2人は試合後、「まだ先輩に並んだだけ。越えるにはもう1つ勝たないと」と述べ、「より良い色のメダル」獲得に強い意欲を見せた
男子ダブルスではこの日、第2シードのマシアス・ボー/カールステン・モゲンセン組、第3シードのマルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ組が相次いで敗れ、勝ち残りの4ペアの中で園田・嘉村組が最上位に立ち、日本男子初の世界選手権決勝進出へ期待が高まった
男子シングルスは、優勝候補の4人が順当に勝ち上がった。唯一の欧州勢であるデンマークのビクター・アクセルセン選手は1年前、リオデジャネイロ五輪の準決勝と同じ中国チェン・ロン選手と再戦する
日本勢の消えた混合ダブルスでは、世界2位の中国ルー・カイ/ホワン・ヤチオン組が、香港リー・チュンヘイ/チャウ・ホイワー組に敗れる波乱があった。世界13位の香港ペアは前日、デンマークの強豪ヨアキム・フィッシャー・ニールセン/クリスティナ・ペダーセン組の途中棄権でベスト8入り。その流れのまま、ダブルス種目では香港勢初となるメダルを確保した
◆準々決勝の結果
【男子シングルス】
ソン・ワンホ(韓国、世界1位)<21-14,21-18>キダンビ・スリカンス(インド、世界8位)
リン・ダン(中国、世界7位)<21-17,21-18>ウォン・ウィンキ(香港、世界14位)
ビクター・アクセルセン(デンマーク、世界3位)<21-18,20-22,21-16>チョウ・ティエンチェン(台湾、世界6位)
チェン・ロン(中国、世界5位)<21-12,21-17>ティエン・ホウウェイ(中国、世界11位)
【女子シングルス】
ラッチャノク・インタノン(タイ、世界8位)<21-14,16-21,12-21>チェン・ユーフェイ(中国、世界11位)
プサルラ・ヴェンカタ・シンドゥ(インド、世界5位)<21-14,21-9>スン・ユ(中国、世界6位)
カロリナ・マリン(スペイン、世界4位)<18-21,21-14,15-21>奥原希望(世界8位)
サイナ・ネワル(インド、世界16位)<21-19,18-21,21-15>カースティ・ギルモア(スコットランド、世界31位)
【男子ダブルス】
モハンマド・アーサン/ライアン・アグン・サプトロ(インドネシア、世界30位)<21-16,21-18>キム・ドクヨン/チュン・ウイソク(韓国、世界54位)
園田啓悟・嘉村健士(世界4位)<21-13,23-21>マッズ・コンラド・ペターセン/マッズ・ピーラー・コルディング(デンマーク、世界7位)
マルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(インドネシア、世界3位)<21-11,19-21,20-22>ホン・ウェイ/チャイ・ビアオ(中国、世界6位)
マシアス・ボー/カールステン・モゲンセン(デンマーク、世界2位)<22-20,11-21,20-22>ツァン・ナン/リュウ・チェン(中国、世界8位)
【女子ダブルス】
高橋礼華・松友美佐紀(世界1位)<21-13,25-27,21-19>バオ・イーシン/ユー・シャオハン(中国、世界19位)
チェン・チンチェン/ジア・イーファン(中国、世界4位)<21-17,21-14>チョン・ギョンウン/シン・スンチャン(世界5位)
チャン・イエナ/イ・ソヒ(韓国、世界3位)<14-21,27-25,19-21>福島由紀・廣田彩花(世界9位)
クリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール(デンマーク、世界2位)<5-21,21-18,27-25>米元小春・田中志穂(世界7位)
【混合ダブルス】
ツェン・シウェイ/チェン・チンチェン(中国、世界1位)<21-16,21-12>プラビーン・ジョーダン/デビー・スサント(インドネシア、世界7位)
クリス・アドコック/ガブリエル・アドコック(イングランド、世界5位)<16-21,21-13,21-16>タン・チュンマン/ツェ・インシュー(香港、世界15位)
タントウィ・アーマド/リリアナ・ナッチル(インドネシア、世界3位)<19-21,21-15,21-18>ワン・イーリュ/ホワン・ドンピン(中国、世界16位)
ルー・カイ/ホワン・ヤチオン(中国、世界2位)<13-21,21-17,15-21>リー・チュンヘイ/チャウ・ホイワー(香港、世界13位)
◆準決勝の対戦カード
【男子シングルス】
ソン・ワンホ(韓国、世界1位)対リン・ダン(中国、世界7位)
ビクター・アクセルセン(デンマーク、世界3位)対チェン・ロン(中国、世界5位)
【女子シングルス】
プサルラ・ヴェンカタ・シンドゥ(インド、世界5位)対対チェン・ユーフェイ(中国、世界11位)
奥原希望(世界8位)対サイナ・ネワル(インド、世界16位)
【男子ダブルス】
園田啓悟・嘉村健士(世界4位)対モハンマド・アーサン/ライアン・アグン・サプトロ(インドネシア、世界30位)
ホン・ウェイ/チャイ・ビアオ(中国、世界6位)対ツァン・ナン/リュウ・チェン(中国、世界8位)
【女子ダブルス】
高橋礼華・松友美佐紀(世界1位)対チェン・チンチェン/ジア・イーファン(中国、世界4位)
クリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール(デンマーク、世界2位)対福島由紀・廣田彩花(世界9位)
【混合ダブルス】
ツェン・シウェイ/チェン・チンチェン(中国、世界1位)対クリス・アドコック/ガブリエル・アドコック(イングランド、世界5位)
タントウィ・アーマド/リリアナ・ナッチル(インドネシア、世界3位)対リー・チュンヘイ/チャウ・ホイワー(香港、世界13位)