
アジア団体選手権決勝、日本女子は前回大会に続いて中国とタイトルを争い、ユーバー杯でも対戦が予想される中国のトップシングルス2人を山口茜、奥原希望両選手が連破。高橋礼華・松友美佐紀組の挙げた1勝と合わせて3-0で勝利し、5月の世界制覇に向け弾みをつけた

オープニングマッチの第1シングルス、山口選手が、現在の中国ナンバーワン、チェン・ユーフェイ選手と顔を合わせた。第1シードとして初出場した昨年8月の世界選手権で初黒星を喫した後、同10月のデンマークオープン(当時のスーパーシリーズプレミア)で勝っているが、この時もファイナルゲーム21-19の辛勝。接戦になることが予想された
第1ゲームを山口選手、第2ゲームをユーフェィ選手が取り合い迎えたファイナルゲーム、先行する山口選手をユーフェイ選手が追いかける展開に。15-14まで進むが、ここから山口選手が抜けだし、そのまま6連続億点を決めて勝利。日本が先勝する
山口選手は BadPaL の取材に応じ、思うように動けていないと話していた準決勝までに比べて、この日は「こっちに来てからは一番いい動きができた」と述べた。「まだ足りない部分はある」としながらも、「団体戦なので1勝できたところは合格点」と試合を振り返った
第1シングルスとして臨んだ今大会、チームへの貢献度を自らどう評価するか聞くと、周りはどうとらえるか分からないが、と断った上で、「1敗しているのは自分だけ。もう少しいいプレーをして、トップシングルスとして安定感、信頼感をつくっていけたら」と答えた
山口選手はこの会場で2014年、世界ジュニア選手権を戦い、個人戦は優勝したが、団体戦では準々決勝で自ら黒星。チームは勝ち上がったものの、続く準決勝で敗退したため、良いイメージはない、と話していた。今回自分の役割を果たせたことで、その時のイメージを払しょくできたか問うと、「勝敗にかかわる部分では、負けたのは予選(一次リーグ)で、決勝トーナメントでは勝てたのでよかった」と遠慮気味に答えた
5月のユーバー杯に向けた意見を求めると、「日本は『いつも通り』でやった方が強い」と指摘。後ろに強い選手がいるので個人戦のような感覚で、と述べた

2番手に登場の高橋・松友組、前回2016年の覇者として自動的にユーバー杯の出場権を得る中国が今大会、ダブルスに若手を派遣してきたことから、「日本ペア(福島由紀・廣田彩花組、福万尚子・與猶くるみ組)が昨年相次ぎ敗れていたため、気を抜かずに臨んだ」(松友)と言うが、この日は力の差が明らか。ストレート勝ちでチームに2勝目をもたらし、優勝に王手をかけた
ただ、試合後、取材に応じた高橋選手は至って冷静に、「先に2勝とれたのは大きいが、2年前のアジア団体選手権決勝でも、2-0とした後、3つ負けてしまった」と話し、後に続く選手の奮起に期待を寄せた
この試合の自分たちのパフォーマンスに関しては、松友選手が「相手が自分たちに対し引いていた。もうちょっとできた」と、自らの反省を含めコメント。一方、高橋選手は、「集中力を欠いた昨日の試合が悪かったので落ち込み、こんな気持ちで試合をしてはダメ、と気持ちをつくり直して挑めた。今大会の締めくくりとしてはいい内容で終われた」と述べた
松友選手に、現在の中国女子チームをどう見るか聞いたところ、この大会にきているのはAチームではなく、5月のユーバー杯にはとりわけダブルスは今回とは違うトップペアが出てくるが、「それでも以前に比べると若手中心で、これからもっともっと強くなっていく段階だと思う」との認識を示す。その上で、「やはり中国を倒したい気持ちは変わらない。ただ、矛盾するかもしれないが、中国には強くいてほしい。その強い中国を自分たちが倒したい」と率直な思いを口にした
それを踏まえ、リオデジャネイロ五輪まで長く追いかけてきたツァオ・ユンレイ元選手が、中国国家代表女子ダブルスのアシスタントコーチとして現場に戻ってくることへの感想を聞くと、高橋選手は「コート上で対戦してきたユンレイが、中国ペアの後ろにつくのは正直、怖い部分はある」と認めながらも、既に中島慶コーチと‘’ユンレイ対策’についても話し始めていることを明かした

2-0で出番が回ってきた奥原選手だが、強いホー・ビンジャオ選手が相手で、「どこまでできるか」といった気持ちで試合に入り、自分が絶対決めてやろう、といった気負いはなかったという
慎重にいき過ぎたという第1ゲームは、19-18までリードを保ちながら逆転を許し、落とす。しかし、「これで気持ちの面で吹っ切れた」といい、第2ゲームを21-16、ファイナルゲームはさらに尻上がりに調子を上げて21-10と圧倒して逆転勝ち。後に控える第2ダブルス、第3シングルスの2種目を残して、日本チームを頂点に押し上げた
奥原選手は表彰式後、BadPaL に対し、勝利にもさえない表情のまま取材に応じた前日とはうってかわり、「この試合で感覚が戻ってきた部分がある」と笑顔を見せた。ビンジャオ選手のような強い相手と打ち合うことで呼び覚まされるものがあるのか、と問うと、大きくうなずいた
準決勝を終えた時点では、肩を痛めた前回の故障時も3月の全英オープン以降、回復軌道に乗ったとし、ひざを痛めた今回も来月の全英オープンをその目安にしていると明かしていた。しかし、この試合で期せずして手応えをつかめたことで、少し前倒しで調子を上げてきそうだ
3カ月後に控えるユーバー杯で、是が非でも第1シングルスでの出場を目指したい意向はあるか問うと、「以前はそういう思いもあったが、今は違う」と淡々と答えた。むしろ、「第2シングルスは難しいポジション」との認識を示し、再度それに挑む覚悟を見せる。この点については、山口選手も BadPaL に対し、「自分の中では、(前の試合の結果を踏まえて行う)第2シングルスは、負けるときつい、負けられない。第1シングルスはゼロからのスタートで、思いきってやれる」との意見を述べている
日本女子は第1シードで臨んだアジア団体選手権を見事に制し、1981年以来の優勝も期待されるユーバー杯に向け弾みをつけた。ただ一点、気がかりなのは、今大会決勝トーナメントで、第2ダブルス、第3シングルスに出番がなかったこと。5月のユーバー杯・バンコク大会は、ディフェンディングチャンピオンの中国や開催国タイをはじめとする強豪チームがフルメンバーでエントリーしてくるため、タイトル争いは総力戦の様相を呈する。向こう3カ月、特定のメンバーへの依存を軽減するためにも、全体の底上げは欠かせない
一方、男子決勝は、準決勝で最終種目のファイナルゲーム14-20まで追い詰められながら、起死回生の大逆転勝ちを収めたインドネシアが、中国を3-1で降し、決勝で日本を破った前回ハイデラバード大会に続いて、2連覇を達成した

インドネシア男子の強みはダブルス。今大会では、世界ランク1位のマルクス・フェルナルディ・ギデオン選手(26)がケガのため使えなくなり、どういうペアリングでくるか注目された
大舞台での経験豊富なヘンドラ・セティアワン(33)とモハンマド・アーサン(30)のベテラン選手2人を、それぞれケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(21)、アンガ・プラタマ(26)、ライアン・アグン・サプトロ(27)の3人と掛け合わせて、「勝てる」ペアを模索。最終的に、アーサン/プラタマ組、セティアワン/サプトロ組で、準決勝と決勝を乗り切った
ただ、今大会インドネシア最大の功労者は、何と言っても、準決勝で絶対絶命の危機から逆転勝利を決めたシングルス「第4の男」、チーム最年少20歳のフィルマン・アブドゥル・ホリク選手。表彰式では、錚々たる実績を誇る先輩、コーチ陣から、センターの座を譲られていた

敗れた中国は、男女そろって決勝まで進みながら、アジアタイトルを持ち帰ることは叶わず、前回大会の日本と同じ結果に終わった。それでも、トマス・ユーバー杯には、女子がダブルス陣、男子はメンバーの大半を入れ替え、最強の布陣で勝ちにくるため、日本をはじめ各チームにとって脅威であることに変わりはない
一方、準々決勝で優勝したインドネシアに敗れベスト4に届かず、自力でのトマス杯出場権獲得を逃した日本男子。中心メンバーの1人、嘉村健士選手に大会終了後、BadPaL が話を聞くと、チームのけん引役となることが期待される自分たちの最近のパフォーマンスについて、「かみ合っていない部分がある」と認める。それでも、「シングルス、ダブルスともにメンバーの多くが、個人戦で(旧スーパーシリーズ相当の上位大会の)決勝に進んでいる」と指摘。「自信を喪失しているわけではない」と強調した

また、日本代表での復帰戦として2年ぶりに団体戦出場を果たした桃田賢斗選手は BadPaL に対し、「思ったよりもやれた」と今大会、手ごたえがあったと明かした。また、昨年7月以降出場してきた下位大会とは違う雰囲気を感じたといい、特定はしなかったものの、試合を見ていて「こういう選手と対戦してみたい」との想いを強くしたという
さらに、同世代で世界チャンピオンとして君臨するデンマークのビクター・アクセルセン選手について、「上からのショット、レシーブも強くなっている」とレベルアップしていることを認め、直ちに追いつくのは容易でないと感じていることを示唆しながら、「技術面には自信がある。決定力を上げるパワーをつけていきたい」意向を示した
男子の国・地域別対抗戦トマス杯の出場枠は16。まず、◆ディフェンディングチャンピオン(=デンマーク)◆ホスト国(=タイ)◆アジア団体選手権ベスト4(=インドネシア、中国、韓国、マレーシア)◆ヨーロッパ団体選手権ベスト4(※デンマークが入れば3)◆パンアメリカ団体選手権優勝(1)◆オセアニア団体選手権優勝(=オーストラリア)◆アフリカ団体選手権優勝(1)――が出場権を得る。残りの3~4枠は、これに漏れた国・地域で世界ランクの高い順に与えられる。そのため、現時点では非公式ながら、出場権を得ていない国・地域の中で現在、チームランキングが台湾に次いで2番目に高い日本の出場枠確保は確実だ
なお台湾のエース、男子シングルス世界8位チョウ・ティエンチェン選手は、アジア団体選手権の開幕前に既に出場枠を確保できることを確認。この大会のメンバーから外れ、代わりに同時期、同じマレーシアで行われたプロリーグ「パープルリーグ」に出たことを、リーグの会場で直接、BadPaL に明かしていた
決勝の結果
◆女子
日本(第1シード)3ー0中国(第2シード)
(第1シングルス)山口茜(世界2位)<21-16,12-21,21-14>チェン・ユーフェイ(世界8位)
(第1ダブルス)高橋礼華・松友美佐紀(世界2位)<21-13,21-16>リ・インフェイ/ドゥ・ユエ(世界75位)
(第2シングルス)奥原希望(世界7位)<19-21,21-16,21-10>ホー・ビンジャオ(世界9位)
(第2ダブルス)福島由紀・廣田彩花(世界4位)<打ち切り>ツェン・ユー/サオ・トンウェイ(世界263位)
(第3シングルス)佐藤冴香(世界13位)<打ち切り>ガオ・ファンジエ(世界46位)
◆男子
中国(第1シード)1ー3インドネシア(第2シード)
(第1シングルス)シー・ユーチ(世界7位)<21-16,17-21,18-21>ジョナタン・クリスティ(世界13位)
(第1ダブルス)タン・チアン/ホー・ジティン(世界41位)<19-21,18-21>モハンマド・アーサン/アンガ・プラタマ(世界392位)
(第2シングルス)チャオ・ビン(世界26位)<21-12,11-21,21-14>アンソニー・シニスカ・ギンティン(世界9位)
(第2ダブルス)ツォウ・ハオドン/ハン・チェンカイ(世界51位)<14-21,19-21>ヘンドラ・セティアワン/ライアン・アグン・サプトロ(世界273位)
(第3シングルス)ツァオ・ジュンペン(世界81位)<打ち切り>フィルマン・アブドゥル・ホリク(世界82位)
アジア団体選手権の最終結果
◆女子
【優勝】日本(※前回準優勝)【準優勝】中国(※前回優勝)【3位】韓国、インドネシア

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◆男子
【優勝】インドネシア(※2連覇)【準優勝】中国【3位】韓国、マレーシア
