
SSファイナル決勝、2012年世界ジュニア選手権をともに制した桃田賢斗選手と奥原希望選手が、シニアのメジャー大会の1つ、SSファイナルのタイトルをそろって手にした
勝てない時期こそあったものの着実に実績を重ねてきた桃田選手と、ケガのためいったん忘れ去られながら復帰を遂げた奥原選手、この3年間、対照的な道程をたどってきた2人だが、共通の目標であるリオデジャネイロ五輪を8カ月後に控え、世界で勝つことのできる真のメダル候補としてその名を刻んだ
男子シングルス決勝は、1994年生まれの21歳同士、桃田選手とデンマークのビクター・アクセルセン選手の対戦となった。桃田選手は今大会、当初より、同じグループに入った同世代のライバルを強く意識し、「別グループの世界ランク2位、ヤン・ヨルゲンセン選手より上」とコメント。準決勝で世界1位の中国チェン・ロン選手を破った試合を「完璧」と称賛し、警戒感を示していた。ただ、「ディフェンスがすごくいい」と相手の良さを認めた上で、スマッシュを打ち込んでいくだけではやられてしまうので、コーチとも話し合い、かわす戦術に出てこれが奏功した。さらに、ラリーで崩そうと仕掛けてきたアクセルセン選手に、「自分の方が小回りが利く」と自信を持って対峙した結果、ストレート勝ち。とりわけ第2ゲームは中盤以降、相手を技術的、精神的に封じ込めての圧勝だった

桃田選手は、世界トップ選手の中にあっても、テクニックには絶対の自信を持っているが、この試合で、「フィジカルでも上回る部分があった」と新たな手ごたえをつかんだ。準決勝で苦しんだ連戦の疲れからくる足の痛みも、集中力を高めて試合に臨んでいたことで分泌された「アドレナリンにより、気にならなかった」という。またコートの外では、現地入りした所属チームの関係者のメンタル面のケアが、落ちかけたモチベーションを再び高める上で助けになったことを明かした
4月のシンガポールオープンSS、6月のインドネシアオープンSSプレミアに続き、今シーズン3度目の優勝を成し遂げた感想を尋ねると、「(SSで)1回勝つことはあっても、3回勝てる選手は世界にもそんなにいない」と指摘し、自信になると同時に自分の可能性を感じると答えた。一方、最強のライバル2人、五輪2大会連続で金メダルの中国リン・ダン選手と銀メダルのマレーシアのリー・チョンウェイ選手が今大会不在だったことはさほど意に介さず、逆に「ワンチャンスをものにできるか、それをできる人が上に上がっていく」ときっぱり言い切った
桃田選手は、名実ともに日本のエースとして臨む来シーズンの国際大会での目標の1つに、現時点において格上と位置付けるチェン・ロン、リン・ダン、リー・チョンウェイ、それに同等とみるヤン・ヨルゲンセン、ビクター・アクセルセンの合わせて5人以外には負けないようにすることを掲げた。かたや日本では、所属チームの顔として来年2月まで続く日本リーグに可能な限り出場する意向を示す。その実力差ゆえ本気で勝ちに来る相手がほとんどいないと指摘しながら、自分の名前で観客を呼び、自分のプレーで魅了したいと明言した

奥原選手は大会最終日、インドのサイナ・ネワル選手とスペインのカロリナマリン選手に続き、3人目の世界ランク1位経験者、中国ワン・イーハン選手もストレートで撃破。初出場ながら、一次リーグ初戦から決勝まで、世界トップ選手ばかりを相手に1ゲームも落とさぬ文句のつけようがない内容で勝ち、女子シングルスの頂点に立った
試合後、「最もきつかった」と振り返った決勝は、序盤から奥原選手のリードで進むが、16-10から7連続失点を喫し逆転を許してしまい、10月の欧州遠征3連戦で味わった屈辱の大逆転負けが見ているものの脳裏をよぎる。しかし、この場面の点の動きが「ほとんど記憶にない」ほど目の前のプレーに集中していた奥原選手、19-20と先にゲームポイントも握られながら、続く2点をネットインでもぎとり流れを引き戻すと、22-20で第1ゲームを先取する。第2ゲームは2011年にこの大会を制しているワン選手に逆にペースをつかまれ、一時は9-15と点差を6点まで広げられる。それでも奥原選手はあきらめず相手の球を拾い続け徐々にその差を詰めていき、最後は15-18から6連続得点を決め、2ゲームで1時間余りに及んだ接戦に終止符を打った

奥原選手は表彰式の後、取材に応じ、全日本総合選手権で痛めた肩に加え、今大会途中からはのどの痛みも発症し、日本と現地の両面からサポートを受けながら戦っていたことを明かした。決勝はきつくてなかなか足が出ず、自分のコートが広く感じたという。それでも「絶対勝つという強い気持ちで臨んだ。リードされても心折れずに、課題だった大きな大会で結果を出せた」ことを率直に喜んだ。背景には、初めて出場した8月の世界選手権で、大会前から特別に意識しすぎて初戦(2回戦)敗退に終わった苦い経験がある
「彼が勝つのは分かっていた。自分も準優勝ではダメだと思った」と述べたように、ジュニア時代から常に先をいく桃田選手が決勝に進んでいたことも、負けん気の強い奥原選手を後押しした。今大会では2人とも全勝優勝だったが、奥原選手はすべてストレート勝ちで、1ゲーム落とした桃田選手を少しだけ上回った
奥原選手は今シーズン全体を振り返り、世界選手権のほか、五輪レース突入後最初のSSであるオーストラリアンオープンなど、初めての経験でうまくいかない大会があったと認める。その一方で、目標としていたSS初優勝をジャパンオープンで成し遂げ、香港オープンSSでは、優勝こそ逃したが自分のプレーをつかんだ。そして今回、体調が万全でない中、世界トップ選手ばかりが相手の厳しい5試合を勝ち抜くことができ、フィジカル面でも自信を得て今シーズンを締めくくれたことを踏まえ、「出来すぎ」と苦笑しながら、「リオデジャネイロ五輪に向けて着々と結果を残し、メダルが見えてきた」と胸を張った

男子ダブルスは今シーズン、SSでは4月のマレーシアオープンSSプレミアの1勝だけにとどまっていたインドネシアのヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン組が優勝。8月の世界選手権に次ぐメジャータイトルをつかみ、大舞台で結果を残せる強さをあらためて証明した
一次リーグで一度は敗れたが、準決勝では世界ランク1位の韓国イ・ヨンデ/ユ・ヨンソン組も倒してみせた。逆に今シーズン12大会中6勝(オーストラリア、日本、韓国、デンマーク、フランス、香港)と、SSで圧倒的な強さを見せた韓国ペアだったが、メジャータイトルなしに終わった

女子ダブルスは、準決勝で高橋礼華・松友美佐紀組の連覇を夢を阻んだ中国ルオ・ユー/ルオ・イン組が栄冠をつかんだ
デンマークのクリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール組は第1ゲームを奪うも、ペダーセン選手が朝から体調不良で最後までプレーを続行することがかなわず、ファイナルゲーム途中で棄権というあっけない幕切れとなった
ルオ姉妹は、4月のマレーシアオープンSSプレミア以来となる今シーズンSS2勝目。実績でははるか上にいる五輪/世界選手権チャンピオンのツァオ・ユンレイ/ティエン・チン組らを抑え、この種目、五輪レースで中国勢のトップを走っている

混合ダブルスのタイトルは、イングランドのクリス・アドコック/ガブリエル・アドコック組の元に転がり込んだ。優勝候補筆頭である世界1位の中国ツァン・ナン/ツァオ・ユンレイ組に敗れ一次リーグ敗退の可能性もあった2人は、ツァオ選手が足の故障を理由に棄権したことで得たチャンスをものにした
決勝の結果
【男子シングルス】 桃田賢斗(B1位)〈21-15,21-12〉ビクター・アクセルセン(デンマーク、B2位)
【女子シングルス】 奥原希望(A1位)〈22-20,21-18〉ワン・イーハン(中国、B1位)
【男子ダブルス】 ヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン(インドネシア、A2位)〈13-21,21-14,21-14〉ホン・ウェイ/チャイ・ビアオ(中国、B2位)
【女子ダブルス】 ルオ・ユー/ルオ・イン(中国、A2位)〈14-21,21-9,14-4棄権〉クリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール(デンマーク、B2位)
【混合ダブルス】 クリス・アドコック/ガブリエル・アドコック(イングランド、A1位)〈21-14,21-17〉コ・ソンヒョン/キム・ハナ(韓国、B1位)