デンマークオープン決勝は、小林優吾・保木卓朗がワールドツアー初優勝。山口茜と渡辺勇大・東野有紗もタイトルを獲得し、日本勢による3種目制覇で幕を閉じた。男子シングルスはビクター・アクセルセンが桃田賢斗から実に7年8カ月ぶりに白星を挙げ、故郷オーデンセで初めて優勝を遂げた
東京五輪の後、繰り上がりで日本の1番手となり今回のヨーロッパ遠征に臨んだ小林・保木は、男子の国・地域別対抗戦トマス杯で、その立ち位置を固定されず、ペアとしては全5試合中2試合しか出場機会がなかった。個人戦初戦となる今大会では、存在感と覚悟を内外に示すためにも、内容とともに結果が求められた
決勝の相手は、自国開催の大会で優勝を狙いモチベーション高く試合に入ってきたアナース・スカールプ・ラスムセン/キム・アストルプ。過去の対戦成績を見ると、小林・保木は2015年の初対戦時の1勝のみで、その後は3連敗中。決して楽観視できる状況ではなかった
ただ、「これまでは相手のすごさを認めるあまりに消極的になっていたが、今は絶対勝つんだという気持ちがプレーに出ている」(保木)との言葉通り、序盤から積極的に攻めリードする。いったんは逆転され中盤3点差(12-15)をつけられるが、もう一度ひっくり返してオープニングゲームを取る。流れに乗って第2ゲームも主導権を掌握。6-5から7連続得点で突き放すと、リードを保ったまま終盤まで進み、最後は17-12から再び連続得点を決め、勝利をつかみとった
小林は試合後、前衛で多彩なテクニックを発揮するアストルプに対し、「逃げずに、手(ラケット)を上げしっかりフォローできた」ことを勝因のひとつに挙げた。アストルプも、日本ペアに試合全体を通じて難しい戦いを強いられたと認め、「観客で埋まった自国大会でタイトルを獲りたかったが、きょうは相手の方が優れていた。彼らに勝つには自分たちの最高のパフォーマンスを出す必要があったが、それができなかったのが悔やまれる」と話した
小林・保木はこれまで、下位大会インターナショナルチャレンジで2014年と16年の2度、優勝実績があるが、トップ選手の主戦場であるワールドツアー(前身のスーパーシリーズ含め)では、18年韓国オープン(SUPER500)の準優勝が最高成績。ワールドツアー以外で19年、世界選手権・バーゼル大会でも準優勝しているが、上位大会のタイトル獲得は今回が初となった
2人にとって今回の優勝が持つ意味を問われた保木は、「こういう大きな大会に出て4、5年たつが、決勝の舞台に立ち優勝するというのは当初から考えていたこと。きょう実現することができて本当にうれしく思う。SUPER1000の大会でタイトルを手にすることができたことは、これからの自信につながっていく」と述べた
日本の男子ダブルスをここ数年振り返ると、佐藤翔治・川前直樹、平田典靖・橋本博且、早川賢一・遠藤大由、園田啓悟・嘉村健士、遠藤・渡辺勇大がけん引役を務めてきた。このうち、「SUPER500」(前身のスーパーシリーズ相当)以上の大会でタイトルを手にしているのは、平田・橋本、園田・嘉村、遠藤・渡辺の3ペアで、それぞれ2011年インドオープン、16年香港オープン、18年韓国オープンが初優勝の場だった
さらに、「SUPER750」(前身のスーパーシリーズプレミア相当)以上に限定すると、園田・嘉村が1回(18年マレーシアオープン)、遠藤・渡辺が2回(20、21年全英オープン)だけ
これら先輩たちの実績と比較しても、小林・保木の「SUPER1000」優勝は意義があり、「ポスト東京」で日本1番手を担う26歳の2人にとって、いいスタートを切ったといえる。ただ、世界ランクが15位と依然、トップペアを名乗るには低位なため、ここからコンスタントに結果を残して8位内に定位置を確保することが、次にクリアすべき課題となる
女子シングルス決勝では、山口がみせた。オープニングゲームをアン・セヨンに競り負ける形で奪われ、第2ゲームは競り合いを経て、19-20と先にマッチポイントを握られる。しかしこの窮地を踏ん張り、逆にゲームポイントを握り返すが、3度続けて凌がれる展開に突入。それでも気持ちを切らさず、25-23で取り返す。ファイナルゲームに入ると、リザーブタンクの残量の差が出て、山口リードで後半16-5となったところで、足が限界にきていた韓国の19歳が続行不可能と自ら判断し、棄権を申し出て、1時間18分続いた消耗戦は突然、幕切れを迎えた
山口は試合後、「自分の中で1ゲーム目がすごく大切だと思い入っていたので、取れなかった時、体も気持ちも止まってしまいそうだった」ことを認めた。ただ、前日以上に応援があったことで、「気持ちだけは止まらずにプレーし続けられた」のが、最終的に勝利につながったとし、「みなさんの応援に感謝したい」と述べた
重要な局面となった第2ゲーム後半、ミスが少なくなったのは。2ゲームで勝ち切りたい相手がラリーを嫌がっていたよう思えたのに加え、「自分が身体が疲れてきてなかなかスピードを上げることができず、逆に無理に打ちにいったりせず落ち着いてラリーできたのが要因」と説明。その上で、どんな大会でも優勝できることはうれしいとしつつ、「何より、2ゲーム目取り切れたことで応援に少しでも応えられたのかな、と思えることが一番うれしい」と、今回の優勝の感想を語った
山口にとってデンマークオープン制覇は2016年に続き2度目。また、個人戦の優勝は、今回と同じく決勝でアン・セヨンを破った20年1月タイマスターズ(SUPER300)以来4大会ぶり。その間に出場した3大会、20年全英オープン、21年全英オープンと東京五輪ではそれぞれ、カロリナ・マリン、プサルラ・ヴェンカタ・シンドゥ、続けてシンドゥに敗れ、結果はいずれもベスト8
混合ダブルスは、世界5位の渡辺・東野が、準決勝でワン・イーリュ/ホワン・ドンピンを破った勢いそのままに、決勝でも世界ランク上位につけるデチャポン・プアバラヌクロー/サプシリー・テラッタナチャイに勝利。3月の全英オープンに続き、「SUPER1000」2大会連続優勝を成し遂げた
渡辺は試合を振り返り、「相手の得意なプレーにつきあわず、こちらのペースで試合を進めることがすごく大事だと思っていた」と語った。また東野は、(「SUPER1000」2大会連続優勝は)「とてもうれしいが、決勝はレシーブなど反省点があるので、フランスオープンでもう一回優勝できるように修正して臨みたい」と早くも次を向いた

高い期待の集まった男子シングルス決勝は、第1シードの世界チャンピオンと第2シードの五輪金メダリストによる頂上対決。第1ゲームは前半大きくリードされた桃田が、7-14から追い上げ逆転。最後は20-20から振り切って先取する。第2ゲームは、桃田優勢で17-14まで進むが、今度はアクセルセンが連続得点で逆転し、そのまま逃げ切る形で取り返す。ファイナルゲームに入るとアクセルセンが主導権をつかみ、疲れの見える桃田との点差をどんどん広げて、一気に勝負を決めた
桃田は敗戦後、1ゲーム目に先行されるのはいつものことで焦りはなかった。2ゲーム目は横風を予想していたが、「思いのほか伸びず、2回くらいジャッジミスしてしまった」のを敗因とした。ファイナルゲームはお互い出し切っている状態で、「自分が気持ちで押されてしまった感じ」と振り返った
ただ、「彼との試合は厳しいが、内容も濃くて自分自身成長できているとの手ごたえがある。ずっと調子は悪かったが、ひとつ今大会で吹っきれたのではと思う。次につながれば」と前向きな姿勢を見せ締めくくった
一方、勝ったアクセルセンは、「賢斗は本当に強い相手。長く間が空いたが、また対戦出来てよかった」とした上で、心身両面でタフな試合だったと認めた
リードしていた第1ゲームは、機を逃さず取りたかったが、桃田が正確で安定感のあるゲームをしてきて逆転を許した。第2ゲームはリードされて、「正直、またか」と、負けるときのパターンの繰り返しになるかとふと思ったが、リラックスして少し速い展開に持ち込んだところ、機能した。ファイナルゲームは、明らかに桃田のフィジカルが落ちたことで勝つことができた、という
この試合をメンタルゲームと位置付けた理由について、トップ選手相手に競り合いになった時、状況を打開するため、今やってることは正しいか、変えるべきかを判断する必要があるが、今回は何とかうまくいった、と説明した
今大会の結果を踏まえ、アクセルセンは、最後に桃田と決勝を戦った2020年1月マレーシアマスターズ(SUPER500)から数えて12の国際大会(個人戦※ヨーロッパ選手権を含む)に出場し、◆優勝7回◆準優勝4回◆ベスト4が1回――という好成績を続けている。そして気が付けば、長く桃田が保持してきた世界ランク1位の座も、すぐ手の届くところにある。桃田との通算対戦成績は2勝14敗
日本勢不在の女子ダブルス決勝は、混合ダブルスで東京五輪を含む数々のタイトルを手にしている中国の26歳ホワン・ドンピンが、25歳ツェン・ユーと組むペアで、韓国の1番手シン・スンチャン/イ・ソヒにストレート勝ち。ペアとして初出場の上位大会「SUPER1000」で、いきなりタイトルを手に入れた
2人はノーシードながら今大会、2回戦で第7シード(世界12位)、準々決勝で第4シード(世界6位)、準決勝で第5シード(世界8位)、決勝で第2シード(世界4位)と、世界ランク上位ペアを連破する快挙。中国女子選手の強さをあらためて証明したが。「結果には非常に驚いているが、すごくうれしい」と感想を述べた
ホワン・ドンピンとツェン・ユーは2018年、ドイツオープン(SUPER300)に予選枠から出場して勝ち上がり、決勝で福島由紀・廣田彩花に敗れ準優勝になっている
ちなみに、混合ダブルスの顔であるドンピンだが、ジュニア時代には女子ダブルスで、現在世界2位のジア・イーファンと組み、2013年アジアジュニア選手権で金メダル。同年世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した
混合ダブルス金メダリストとなった東京五輪から、スディルマン杯、ウーバー杯、そしてデンマークオープンまで負けなしできたことについては、「驚いているが、それぞれの試合でいいパフォーマンスを出せるよう努めている」と答えた
決勝の結果
【男子シングルス】桃田賢斗<22-20,18-21,12-21>ビクター・アクセルセン(デンマーク)
【女子シングルス】山口茜<18-21,25-23,16-5棄権>アン・セヨン(韓国)
【男子ダブルス】アナース・スカールプ・ラスムセン/キム・アストルプ(デンマーク)<18-21,12-21>小林優吾・保木卓朗
【女子ダブルス】シン・スンチャン/イ・ソヒ(韓国)<15-21,17-21>ホワン・ドンピン/ツェン・ユー(中国)
【男子ダブルス】デチャポン・プアバラヌクロー/サプシリー・テラッタナチャイ(タイ)<18-21,9-21>渡辺勇大・東野有紗