
全英オープン(SUPER1000)決勝、渡辺勇大・東野有紗組は、国際大会でこれまで1敗しかしていない実力ナンバーワンの中国ペアを破り、日本初の混合ダブルスチャンピオンとして伝統ある全英の記録にその名を刻んだ
渡辺・東野組の決勝の相手、ツェン・シウェイ/ホワン・ヤチオン組は、中国が昨年、当時の混合ダブルス世界ランキングで1位にいた男子と2位にいた女子を組ませて作ったペア。昨年11月のマカオオープンから今年1月のインドネシアマスターズまで、出場した5大会のうち4大会で優勝と他を圧倒する強さを誇り、1月マレーシアマスターズの決勝で香港タン・チュンマン/ツェ・インシュー組に敗れたのが、唯一の敗戦だった
渡辺・東野組は1月、インドネシアマスターズ1回戦で初めて顔を合わせたが、この時は所要時間30分、第2ゲームは7点しか取れない「完敗」だった。試合後、BadPaL の取材に応じた2人は、自分たちに簡単なミスが多かったことが敗因、と認めた。ただ、組み始めてから昨年負けなしだった相手と実際に試合をしてみて感じた「強さ」の印象を聞くと、強がる様子はなく、至って冷静に「ジュニア時代から先を走るライバル、ツェン・シウェイ選手のパートナーが、チェン・チンチェン選手からホワン・ヤチオン選手に代わったが、それほど脅威は感じなかった。十分やれる」と口をそろえた
また、今年から混合ダブルスの専任コーチとして加わったジェレミー・ガン氏について、「(同氏の指導の下、)試合中でも2人でよく話し合うようになった」「プレーの選択肢を増やしてくれる」と、着任後間もないにもかかわらず、いい影響を受けていることを明かしていた

決勝は、全英特有の雰囲気の中、プレーが少し小さくなったか、第1ゲームは中国ペアに圧倒される。しかし第2ゲームに入るとリズムをつかみ、前半を11-6とリードして折り返す。後半に入ると、出場6大会連続で決勝進出と実績に勝る中国ペアにじりじりと迫られ、終盤19-16から連続失点して追いつかれてしまう。流れは相手側にあったが、ミスが出ても恐れず前に向かう姿勢を持続できたことが奏功し、22-20でこのゲームを取り、試合をふりだしに戻す
フィナルゲームに入ると、勢いを増す2人に気圧されてか、中国ペアにミスが増え始め、日本ペアが17-10とリードを広げる。その後、19-16と3点差まで詰められたものの、最後まで動きを止めなかった渡辺、東野の2人が続く2点を取って勝利。日本で強化が遅れていた混合ダブルスで史上初優勝の快挙を成し遂げた
女子ダブルスでも世界1位につけるチェン・チンチェン選手と組んだかつてのペアで、何度も渡辺・東野組に勝ってきたツェン・シウェイ選手は試合後、「相手の方が自分たちよりスピードがあった」と敗因を語った。なお、渡辺・東野組がツェン・シウェイ/チェン・チンチェン組に勝利したのは、昨年5月の男女混合団体戦スディルマン杯準決勝の1度だけ。ただ、中国サイドにとってはこの敗戦が、同8月の世界選手権決勝でタントウィ・アーマド/リリアナ・ナッチル組(インドネシア)に敗れた試合などとともに、今も世界ランク1位の座にいるツェン・シウェイ/チェン・チンチェン組の組み換えに踏み切るきっかけとなった
渡辺・東野組は今大会1回戦、第3シードの香港タン・チュンマン/ツェ・インシュー組を相手に第1ゲームを失い、第2ゲームも9-17と大差をつけられ、初戦敗退が濃厚な状況から、起死回生の逆転勝利を収めて勢いづいた。その後は試合を経るごとに調子を上げ、誰もが本気で勝ちに来る全英オープンという大舞台で頂点に立った
今シーズン最初のワールドツアー最上位「SUPER1000」の大会に優勝したことで、2人はランキングポイント12,000点を得て、大会期間中に48位まで下げた世界ランクを20位台前半まで戻してくる。ここから先は、ライバルペアによるチェックが厳しくなること以上に、まずは大きなケガなく大会に続けて出場し、コンスタントに結果を残していけるかが課題となる

この日、2種目目に登場したのは、女子シングルス第2シードの山口茜選手。第1シードの台湾タイ・ツーイン選手との頂上決戦に挑んだ
オープニングゲームは互いに点を取り合う展開で進み、山口選手は16-18から積極的に仕掛けてリードを奪い、逃げ切りを図る。しかしタイ選手はそれを許さず19-19。次の1点をサーブレシーブのディセプション(相手の裏をかくプレー)で取った山口選手が先にゲームポイント(20-19)をつかむ。それでも、直後の決めにいった長いラリーをタイ選手に凌がれると、続く2点も奪われ、このゲームを失う
第2ゲームは、タイ選手が序盤からリードし、その差を徐々に広げていく。山口選手も反撃を試みるが、疲れからか動きが落ち、攻守にわたってクオリティの高いプレーを続ける世界1位を追い込むのに十分な余力はなく、前半は5-11。後半も11-18まで点差を広げられ、最後は13-18から3連続得点を決められて敗戦を迎えた
山口選手は準優勝で、昨年のベスト4を1つ上回る結果を残した。ただ、会場が大きく自身にとってやり易い大会の1つに挙げる全英オープンでの初優勝は、来年以降に持ち越しとなった。ちなみに先の BadPaL 独占取材で、全英同様、会場が大きくやり易いとしたジャパンオープンと中国オープンでは、既に優勝している
一方、優勝したタイ・ツーイン選手は全英2連覇を達成。今シーズンで見ると、出場3大会続けての決勝進出で、インドネシアマスターズ(SUPER500)に次ぐ「HSBCワールドツアー」2勝目となった

女子ダブルスの福島由紀・廣田彩花組は、通算対戦成績では負け越しているものの、昨年、世界選手権とスーパーシリーズ(SS)ファイナルという大きな大会2つで続けて勝利したクリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール組(デンマーク)と互角の勝負を展開する。第1ゲームは19-19、第2ゲームも18-19とギリギリまで競り合ったが、1球のミズが勝敗を分ける結果となり、優勝にはわずかに手が届かず。世界選手権、SSファイナルに続いて準優勝に終わった
1月のマレーシアマスターズ(SUPER500)に次ぐ今シーズン2勝目を挙げたデンマークペア。34歳のユール選手は、これまで2015年世界選手権(対中国ツァオ・ユンレイ/ティエン・チン組)、16年五輪(対高橋礼華・松友美佐紀組)と、メジャー大会で決勝まで進みながら敗れ準優勝にとどまっていたが、世界選手権と同等に位置づける全英オープン(17年準優勝=対韓国チャン・イエナ/イ・ソヒ組)でようやく1番になれたことを喜んだ。31歳のペダーセン選手は、「ほかの大会で優勝してもめったに見せない」という涙を流し、「この勝利は特別」と感情的になっていた
中国、韓国、日本とアジア勢が長く席巻する全英オープンの女子ダブルスで、ヨーロッパのペアがタイトルを手にするのは、1981年ノラ・ペリー/ジェーン・ウェブスター組(イングランド)以来37年ぶり
デンマーク勢はもうひと種目、男子ダブルスでマシアス・ボー/カールステン・モゲンセン組が2010年、11年、15年に続く4度目の決勝進出を果たし、11年、15年に続く3度目のタイトル奪取を狙った。しかし世界ランク1位、インドネシアのマルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ組に跳ね返された
全英2連覇を達成したギデオン/スカムルジョ組は、昨年の中国オープン、香港オープン、SSファイナル、今年に入ってインドネシアマスターズ、インドオープン、全英オープンと、連続優勝大会数を6に伸ばし、世界1位の座を確固たるものにしている
中国勢同士の対戦となった男子シングルスは、2004年、06年、07年、09年、12年、16年に続く7度目の優勝を狙った34歳リン・ダン選手を、2年連続で決勝進出を果たしたひとまわり年の離れた22歳シー・ユーチ選手が止め、全英初制覇。シー選手は準々決勝で、13年と15年優勝の29歳チェン・ロン選手も破っており、中国男子シングルス陣の中での世代交代を印象付けた
決勝の結果
【男子シングルス】リン・ダン(中国、第6シード)<19-21,21-16,9-21>シー・ユーチ(中国、第7シード)
【女子シングルス】タイ・ツーイン(台湾、第1シード)<22-20,21-13>山口茜(第2シード)
【男子ダブルス】マルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(インドネシア、第1シード)<21-18,21-17>マシアス・ボー/カールステン・モゲンセン(デンマーク、第2シード)
【女子ダブルス】クリスティナ・ペダーセン/カミラ・リタ・ユール(デンマーク、第3シード)<21-19,21-18>福島由紀・廣田彩花(第4シード)
【混合ダブルス】ツェン・シウェイ/ホワン・ヤチオン(中国、第5シード)<21-15,20-22,16-21>渡辺勇大・東野有紗