
日本のバドミントンを目に見える形で世界レベルに近づけた貢献者の1人、田児賢一選手が、ついにナショナルチームから離脱した。調子を落とした昨年後半以降、自らの意思としてその可能性があり得ることを示唆していたが、今月1日、「代表辞退」という形で現実のものとなった
ヘッドコーチのパク・ジュボン氏は8月、世界選手権の会場となったインドネシア・ジャカルタで海外メディアの取材に答え、「ケガなどもあり、世界ランクを大きく落とした田児選手のナショナルチーム内におけるポジションを世界選手権後に見直す」と述べていた。その後、田児選手は9月に自国開催のジャパンオープン、さらに韓国オープンと、2つのスーパーシリーズ(SS)に予選から出場。しかし、長年世界トップを目指し戦い続けた結果、低下したモチベーションの回復に努めるベテランとは対照的に、失うものなく向かってくる若手の勢いに屈し、いずれも本戦出場を果たせず終わった
ただ、まだ十分ではないにしろ気持ちの戻りは感じられた。敗れた相手も若手とはいえ、弱くはなかった。とりわけ韓国で対戦したインドネシアのイーサン・マウラナ・ムストファ選手は19歳ながら、◆7月台湾オープンでインドのキダンビ・スリカンス選手(世界5位)◆9月ジャパンオープンでドイツのマーク・ツイブラー選手(世界14位)と香港フ・ユン選手(世界13位)◆9月韓国オープンで再びマーク・ツイブラー選手◆現在開催中のタイオープンでは第1シードの韓国ソン・ワンホ選手(世界10位)――と、リオデジャネイロ五輪出場圏内にいる各国・地域のエース級を相手に大物食いを連発している成長株だ
田児選手は2014年5月、インド・ニューデリーで開催された男子の国・地域別対抗戦トマス杯でエースとして日本を史上初優勝に導いた。さらに優勝を決めた直後から、「この後が大事」と自らにも言い聞かせるように繰り返し、翌月のジャパンオープンとインドネシアオープンで、優勝メンバーが軒並み早い段階で敗れ去る中、それぞれベスト4、準優勝という好結果を残してみせた
しかし、続くオーストラリアンオープンを「休んでしまった」ところから何かが変わり、その後は、モチベーションの低下、燃え尽きといった状態を自認するようになり、技能的には相手を凌駕している試合でも、途中から気持ちがなえたように失速してしまう敗戦が続いた。世界バドミントン連盟(BWF)がこの年期待する選手の1人として事前のプロモーションに招かれていた、アラブ首長国連邦・ドバイ開催のSSファイナルへの出場権(世界上位8選手のみ)はギリギリ手にした。ただ、大会前に明らかとなった、常に対戦したい相手にあげるリー・チョンウェイ選手のドーピング違反による資格停止も影響して、やはりどこか心ここに非ずといった感じで、結果はついてこなかった。この会場で既に田児選手は BadPaL に対し、状況を変えるためナショナルチームから離れることになるかもしれない、と自らの覚悟を語っていた

田児選手に代わって現在、日本の男子シングルスをけん引するのは桃田賢斗選手。6月以降世界ランク4位以内(最高位3位)をキープしシード権を確保。今シーズンに入り、SS以上の上位大会で優勝2回、ベスト4が2回(世界選手権銅メダルを含む)と、コンスタントに結果を残しはじめている。ただここにきてもう1つ上を目指す中で、現時点における実力世界ナンバーワン、中国チェン・ロン選手という大きな壁にぶち当たり、打開策を見出せないでいる。ここから抜け出すには、日本代表の中で唯一、チェン・ロン選手から勝ち星(4勝)を挙げている田児選手の存在は、コーチとは別の意味で不可欠だ
田児選手は、ナショナルチームを離れた後も自費参加で国際大会への出場を続ける意向を示している。コートに立ち続ける以上、桃田選手にとってはライバルの1人。しかし同時に、世界で明確な結果を残してきた先輩が身近にいて同じ舞台で戦う姿は、未だ知らぬ領域である世界トップを狙う上での刺激やヒントにつながる。田児選手の今後の動きは、本人の復活への期待にとどまらず、後に続く日本の若手への影響も小さくないと予想されるだけに、目が離せない