
16年目を迎えた毎年恒例の「FDGカップ」が6月、フィリピン・マニラ首都圏で開催された。世界タイトルを持つ同世代のライバル2人、奥原希望とラッチャノク・インタノンがエキシビションに参加。ここでしか見られないペアを結成し、大勢の買い物客らで賑わうショッピングモール内で終始笑顔、息の合ったプレーを披露した
この大会は、昨年通年の純利益82億ペソ(約180億円)を計上した不動産開発などを手掛ける地場上場企業ロビンソンズランドが中心となり、毎年この時期(6~7月)に開催しているもので、同社のフレデリック・D・ゴー社長兼最高経営責任者(CEO)の名を冠している。2004年にスタートした大会の起源である、グループ会社社員の親睦と健康促進を兼ねたチーム戦のほか、外国人も出場可能なオープントーナメント(個人戦)を並行して実施。最終日、準決勝と決勝の合間に世界トップを招いたエキシビションマッチが行われた

今年は、2013、15、16、17年に次いで2年ぶり5度目となる大型ショッピングモール内でのエキシビション実施が決まり、「Where the best of the world come to play」のスローガン通り、日本とタイから世界チャンピオンの競演が実現した
過去に世界選手権金メダリストでこのエキシビションに参加したのは、◆タウフィック・ヒダヤット(インドネシア)◆ワン・リン(中国)◆タントウィアーマド/リリアナ・ナッチル(インドネシア)――の4人
ゴー社長の意向もあり、日本選手の招致に関わってきた BadPaL は今回、まず奥原選手、加えて、その関係性を踏まえ「相棒」の人選も提案した
1995年2月生まれのインタノンと同年3月生まれの奥原は、ジュニア時代から続くライバル同士。奥原が2011年インターハイ対策で引率の先生に連れられ、バンコク郊外にあるインタノンの所属するクラブを訪ね、既に世界ジュニアを2連覇するなどはるか先を走っていたインタノンに「えぐい球を見せられた」のがはじまり

公式戦初顔合わせとなったその年の世界ジュニア・台北大会では、準決勝でストレート負け(16-21,16-21)。それでも腐ることなく、この時点での実力差を率直に受け入れ、敗戦直後、インタノンに直接アドバイスを求めた。奥原はこの時、「将来のライバルと見てくれていて、早く上まで昇ってこいとエールを送られている。そうした期待に応えられるように、これから一層がんばる」と、BadPaL に語っていた

そして、この大会でも優勝し前人未到の世界ジュニア3連覇(09-11年)を達成したインタノンの後に続くように、奥原は翌12年、千葉大会でタイトルを獲得(※インタノンは出場せず)。並行して出場していたシニアの大会でも徐々に頭角を現し、世界ランクを30位台に上げ追撃ののろしを上げた、かに見えた。しかし13年1月マレーシアオープンで左ひざを負傷し、長期の戦線離脱を余儀なくされる。その年の8月、インタノンはシングルス史上最年少となる18歳で世界チャンピオンの座に着いた

またも置いていかれた奥原だが、長いリハビリ期間を経て復帰した後、14年の後半辺りから再び追い上げを開始した。15年12月SSファイナル優勝、16年3月全英オープン優勝と、インタノンがまだ手にしていないメジャータイトルを続けて奪取。第6シードで迎えたリオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得し、山口茜に敗れベスト16に終わった第4シードのインタノンを結果で上回った。そして17年、ライバルに4年遅れたものの、世界タイトルも手にしてみせた
奥原の実力を早くから認めていたインタノン、今では「自分が追いかける立場」といたって自然に話す。ただ、その後の対戦成績を見ると、直近のオーストラリアンオープン(SUPER300)で奥原が勝利し1つ勝ち越したが、3勝2敗とほぼ互角。幾多の対戦を通じて手の内を知り合っていることから、この先も勝ち負けを繰り返していくことが予想される

奥原は今回のフィリピン滞在中、ジュニア時代に知ったインタノンの存在が、当面目指すべき世界レベルの指標となり、国内でシニアの先輩たちに負けることがあっても惑わず、今やるべきこと、進むべき方向がはっきりしていたと話した
世界のトップ同士、コート内では変わらず厳しい戦いを繰り広げる2人だが、いったんコートを離れると、最近は互いに英語で言葉を交わす姿を各大会会場で見かける機会も増えた。混戦の女子シングルスの中にあって、現在の世界ランクは3位と7位。共に節目の目標と位置付ける1年後の東京五輪をどのような形で迎えることになるのか、五輪レースの推移から目が離せない。さらにプロ選手同士、五輪後を見据えたそれぞれのコート内外での活動も注目される
なお、このエキシビションに過去10年で招かれた世界トップは、次の通り。【2009年】イ・ヨンデ含む韓国ナショナルチーム【10年】チェン・ウェンシン/チエン・ユーチン(台湾)【11年】リー・チョンウェイ、クー・ケンケット(マレーシア)【12年】タントウィ・アーマド/リリアナ・ナッチル、シモン・サントソ(インドネシア)【13年】ピーター・ゲード(デンマーク)、リー・チョンウェイ【14年】ワン・シン、ワン・リン(中国)【15年】タウフィック・ヒダヤット、藤井瑞希【16年】セリーナ・ピーク/イーフィア・ムスケンス(オランダ)【17年】カミラ・リタ・ユール/クリスティナ・ペダーセン(デンマーク)、田児賢一【18年】マルクス・フェルナルディ・ギデオン/ケビン・サンジャヤ・スカムルジョ(インドネシア)――
一方、13~16日の4日間実施されたオープントーナメントには、昨年の男子シングルスチャンピオン福田春樹のほか、グエン・ティエンミン、ヴ・ティチャン、ブーンサック・ポンサナら、日本、べトナム、タイ、フランス、スロベニア、ロシア、ウクライナ、マレーシア、インドネシアから「外国」選手が参戦した
男女シングルスは、ベトナムのグエン・ティエンミンとヴ・ティチャンが難なく優勝。地元選手とのペアリングが義務付けられるダブルスでは、男子でブーンサック・ポンサナ(タイ)、女子でクリスティナ・ザノべコワ(ウクライナ)、混合でエリザベタ・タラソワ(ロシア)がそれぞれ準優勝し、夜に行われたレセプションを兼ねた表彰式で、プレゼンターを務めた奥原とインタノンからメダルを授与された

決勝の結果(オープントーナメントのみ)
【男子シングルス】 グエン・ティエンミン(ベトナム)<21-8,21-9>シャズワン・シャルル(マレーシア)
【女子シングルス】 ヴ・ティチャン(ベトナム)<21-13,21-7>(インドネシア)ウィンダ・プジ・ハストゥティ
【男子ダブルス】 アレム・パルマレス/クリスチャン・ベルナルド(フィリピン、第5シード)〈21-15,21-10〉(タイ/フィリピン)ブーンサック・ポンサナ/エンリコ・ケオニ・アスンション
【女子ダブルス】 チャネル・ルノド/ジョエラ・ゲバ・デベラ(フィリピン、第4シード)<21-12,25-23>クリスティナ・ザノベコワ/チエンシ・オリラネダ(ウクライナ/フィリピン)
【混合ダブルス】 クリスチャン・ベルナルド/ジョエラ・ゲバ・デベラ(フィリピン、第2シード)<21-18,21-14>ジェノ・カリノ/エリザベタ・タラソワ(フィリピン/ロシア)