台湾オープングランプリ(GP)ゴールドは、3日目を終えて各種目のベスト8が出そろい、日本からは、女子シングルス2人、男子ダブルス2組、女子ダブルス2組が残った。ただ試合を終えた選手に直接話を聞くと、各々が現在置かれている状況等により、この大会の位置づけがそれぞれ異なることが浮き彫りになった

女子シングルスの奥原希望選手はベスト8入りを決めた直後、BadPaL の取材に応じ、今月5日まで京都で行われた全日本実業団選手権の後、ほとんど練習ができないままこの大会に入っていることを明かした。疲れに起因するものと考えられるが、呼吸がしづらい状態になっているという
6月末に出場した今大会と同じGPゴールドの格付けにあるUSオープンで優勝し、ランキングポイントを稼いでいたこともあり、「棄権することも考えた」というが、第8シードに入り比較的ドローが良かったこと、世界ランク上位の選手が軒並みエントリーし、中でもまだ一度も試合をしたことのない中国リ・シュエリ選手と初めて対戦できる可能性があったこと、などから、この大会を回避して8月の世界選手権に「ぶっつけ本番」で臨むよりはいい、と出場を決めたと話した
準々決勝では、万全の状態とは言えないながら、6月のインドネシアオープンSSプレミアにおいて、山口茜選手が4度目の対戦で初勝利を挙げたロンドン五輪金メダルのリ・シュエリ選手に初めて挑む

日本から7人が出場した女子シングルスではもう1人、佐藤冴香選手が準々決勝に進んだ ナショナルチームB代表の佐藤選手は現在、世界ランク18位。奥原、山口、三谷美菜津、高橋沙也加と並ぶA代表4選手に次ぐ日本5番手につけている。ただ、上位大会SSへの出場が制限されるため、台湾オープンをはじめとするGPゴールドでは、「A代表の選手を上回る結果を残したい」と意気込む。1回戦は、今大会最大の山場といえる、第3シードの韓国ソン・ジヒョン選手を相手に、「向かっていくだけ」と積極的に仕掛け、21-19,21-16のストレート勝ち。2回戦では、同じ韓国の若手成長株キム・ヒョミン選手を寄せ付けなかった
五輪レース中ということでSS並みに強豪が顔をそろえた今大会、軽々しく優勝を狙うという言葉は口にしない。ただこの種目、日本勢で唯一、前回の五輪レースを経験している強みを活かして今回のレースを勝ち抜きたい、と静かに闘志をのぞかせている

一方、6月15日付でA代表復帰を果たした高橋(沙)選手は1回戦、台湾パイ・ユーポ選手を下し、2回戦で過去5戦5敗の難敵、中国ワン・シーシャン選手と対戦した。第1ゲームをワン選手、第2ゲームを高橋選手が取り合い、迎えたファイナルゲーム、地力に勝るワン選手がじりじりと引き離し、14-20と6つのマッチポイントを握る。しかし高橋選手は、「勝ったことのない相手だったので勝ちたかった」と試合後語った通り、この窮地に気持ちを切らすことなく粘りを見せ、6連続得点で追いつく。さらに2つのマッチポイントを凌いだが、最後は22-24で力尽きた
高橋選手は試合直後、BadPaL の取材に応じ、あと一歩届かなかった悔しさに涙を浮かべながらも、「ファイナルゲームの入り方がよくなかった。瀬戸際で負けるのは自分がまだまだということ」と、しっかりした口調で反省の弁を述べた。ただ、「14-20から追いつけたのは今までの自分と違うところ」と評価。このレベルでやっていけると思うので、気を抜かずに、8月の世界選手権に向けて準備を進めていく、と前を向いた

男子ダブルスの早川賢一・遠藤大由組は、6月5日のインドネシアオープンSSプレミア準々決勝で左ひざを故障した遠藤選手の状態が気になるところだったが、1、2回戦では予選勝ち上がりの台湾と香港のペアをともにストレートで退け、難なくベスト8に入った
早川選手は試合後、BadPaL に対し、今大会の位置付けを、「遠藤の状態が万全ならば、当然ランキングポイントを狙いにいくが、今回は世界選手権でメダルを取るための準備」と説明した。インドネシアオープンの後、練習は別々。エントリーしていたUSオープンの出場も回避して、一緒に組んでゲームをしたのはつい最近、とのこと。2008年に右ひざの前十字靭帯を切っている遠藤選手は、左ひざを痛めた直後、「切れてはいない。(治すのに)3週間くらいかなと直感した」という
インドネシアオープンの時、実況を担当していたジリアン・クラーク氏からは、明らかに通常のプレーができない負傷した状態で、五輪レースの大事な年になぜリスクを冒して試合を続けるのか、という指摘があがっていた。この点について遠藤選手は、「ケガをする前の試合で良いパフォーマンスができていた。その感覚を確認したかった」と、あくまで自ら望んで最後までプレーを続けたことを強調した
準々決勝では、過去1勝1敗の世界ランク6位、中国フー・ハイファン/ツァン・ナン組と対戦する。遠藤選手は、「今大会には課題を持って臨んでいる。1人で練習していた時に思いついた『試したいこと』をぶつけるにはいい相手」と述べた

今大会、日本勢で一番気を吐いているのが若い金子祐樹・井上拓斗組だ。1回戦でいきなり第2シード、世界3位の中国ホン・ウェイ/チャイ・ビアオ組を破る番狂わせを演じ、2回戦でも世界ランク上位のインドネシアペアをねじ伏せた
この大会に期する思いが相当強かったのかと尋ねると、日本5番手につける2人は、「モチベーションが上がるどころか、(初戦で第2シードと当たる)ドローを見て落ち込んだ」と苦笑交じりに明かした。「こちらのことを知らず、相手が油断していた」としながらも、「これまで対戦した中で、最も世界ランクの高い相手」に低い展開での勝負を仕掛け、見事に金星をつかみ取った。続く2回戦では、「ここで負ければせっかくの金星が無駄になる」と取りこぼしをしないよう心掛け、今シーズン、1月のマレーシアと3月のスイスに続く、GPゴールドでのベスト8入りを果たした
「今回の五輪レースを勝つには実力、経験ともに不足している」と話す金子・井上組は、リオデジャネイロ五輪の後にスタートダッシュを決めることを視野に、ここからもう1つ勝って、当面の目標に掲げるGPゴールドベスト4達成を目指す

女子ダブルス世界1位の高橋礼華・松友美佐紀組にとって、主戦場とする上位大会SSより下位のGPゴールドへの出場は、五輪レースを勝ち抜くためにランキングポイントを稼ぐのが主目的ではない。6月初めのインドネシアオープンSSプレミアから、次に控える8月の世界選手権まで間隔が空いてしまうので、「国際大会での試合勘をつかんでおくため」(高橋)。ただ予想に反し、1回戦で米元小春・田中志穂組、2回戦で福島由紀・廣田彩花組と日本ペアとの対戦が続いてしまった。それでも、「日本人対決でも、以前のように合わせることなく、自分たちの試合ができている」(松友)という。この日も福島・廣田組を終始圧倒し、つけ入る隙を見せずに30分で快勝した。韓国ペアと対戦する準々決勝からが、世界選手権を想定したシミュレーションとなりそうだ

女子ダブルスでは松尾静香・内藤真実組もベスト8入り。ただ2回戦の試合内容は決して褒められたものではなく、第1、2ゲームともに終始相手のペースで、いわば負け試合だった。1回戦でシードの韓国ペアを破り勢いに乗るかに見えたが、「リズムよくプレーができたその時のいいイメージを持ったまま試合に臨んだことが2回戦のタイペア相手には裏目に出てしまい、足が止まってしまった」という。それでも、前回の五輪レースでは負けてしまっていたであろうこうした試合を、途中から修正して勝てたことは収穫とした
高橋・松友組(1位)、前田美順・垣岩令佳組(6位)に次ぐ、日本3番手(16位)のB代表、松尾・内藤組は、この大会の位置づけを、ランキングポイントを稼ぐためのものと明言する。ほかの日本ペアの勝敗は気にならないと語る2人は、準々決勝で過去2戦2敗の世界6位、インドネシアのグレイシア・ポリー/ニトヤ・クリシンダ・マヘスワリ組から初白星を狙う

日本選手以外では、男子シングルス元世界1位、マレーシアのリー・チョンウェイ選手が、現世界1位の中国チェン・ロン選手と準々決勝で早くも激突する。ドーピング違反による8カ月の資格停止で、現在世界65位に低迷しているリー選手はここまで、2回戦でインドネシアのトミー・スギアルト選手(世界16位)、3回戦で中国ワン・ツェンミン選手(同7位)と、シード選手2人をストレートで破っている
日本選手3日目の結果
【女子シングルス】 奥原希望(世界9位)〈21-14,21-16〉ニチャオン・ジンダポン(タイ、世界43位)、ワン・シーシャン(中国、世界6位)〈21-18,10-21,24-22〉高橋沙也加(世界17位)、佐藤冴香(世界18位)〈21-17,21-7〉キム・ヒョミン(韓国、世界31位)
【男子ダブルス】 早川賢一・遠藤大由(世界5位)〈21-17,21-8〉フェルナンド・クルニアワン/ユン・シンチョイ(香港、世界399位※予選勝ち上がり)、ヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン(インドネシア、世界4位)〈21-16,21-14〉平田典靖・橋本博且(世界18位)、コ・ソンヒョン/シン・ベクチョル(韓国、世界8位)〈21-19,21-15〉園田啓悟・嘉村健士(世界20位)、アデ・ユスフ/ワヒュ・ナヤカ・アルヤ・パンカリャニラ(インドネシア、世界23位)〈11-21,13-21〉金子祐樹・井上拓斗(世界35位)
【女子ダブルス】 高橋礼華・松友美佐紀(世界1位)〈21-9,21-12〉福島由紀・廣田彩花(世界45位)、松尾静香・内藤真実(世界16位)〈16-21,22-20,21-12〉パタイマス・ムエンウォン/チャラッドチャラム・チャヤニット(タイ、世界83位)、グレイシア・ポリー/ニトヤ・クリシンダ・マヘスワリ(インドネシア、世界5位)〈17-21,21-16,21-16〉福万尚子・與猶くるみ(世界17位)
【混合ダブルス】 ツァン・ナン/ツァオ・ユンレイ(中国、世界1位)〈21-12,23-21〉数野健太・栗原文音(世界272位)
------------------------------------
準々決勝の対戦カード
【男子シングルス】
チェン・ロン(中国、世界1位)対リー・チョンウェイ(マレーシア、世界65位)
ウェイ・ナン(香港、世界20位)対ホ・クワンヒ(韓国、世界202位※予選勝ち上がり)
リン・ダン(中国、世界5位)対ギンティン・アンソニー(インドネシア、世界96位)
ヤン・ヨルゲンセン(デンマーク、世界2位)対チョウ・ティエンチェン(台湾、世界8位)
【女子シングルス】
ラッチャノク・インタノン(タイ、世界3位)対ベ・ヨンジュ(韓国、世界12位)
ワン・シーシャン(中国、世界6位)対ワン・イーハン(中国、世界8位)
タイ・ツーイン(台湾、世界5位)対佐藤冴香(世界18位)
リ・シュエリ(中国、世界4位)対奥原希望(世界9位)
【男子ダブルス】
イ・ヨンデ/ユ・ヨンソン(韓国、世界1位)対リッキー・カランダ・スワルディ/アンガ・プラタマ(インドネシア、世界15位)
早川賢一・遠藤大由(世界5位)対フー・ハイファン/ツァン・ナン(中国、世界6位)
ヘンドラ・セティアワン/モハンマド・アーサン(インドネシア、世界4位)対コ・ソンヒョン/シン・ベクチョル(韓国、世界8位)
金子祐樹・井上拓斗(世界35位)対ギデオン・マルクス・フェルナルディ/ケビン・サンジャヤ・スカムルホ(インドネシア、世界51位)
【女子ダブルス】
高橋礼華・松友美佐紀(世界1位)対コ・アラ/ユ・ヘウォン(韓国、世界25位)
グレイシア・ポリー/ニトヤ・クリシンダ・マヘスワリ(インドネシア、世界5位)対松尾静香・内藤真実(世界16位)
ピア・ゼバディア・ベルナデス/アプリルサシ・プトリ・レジャルサル・バリエラ(インドネシア)対マー・ジン/ホワン・ヤチオン(中国、世界192位※予選勝ち上がり)
ルオ・ユー/ルオ・イン(中国、世界3位)対チャン・イエナ/チョン・ギョンウン(韓国、世界36位)
【混合ダブルス】
ツァン・ナン/ツァオ・ユンレイ(中国、世界1位)対コ・ソンヒョン/キム・ハナ(韓国、世界10位)
リュウ・チェン/バオ・イーシン(中国、世界4位)対プラビーン・ジョーダン/デビー・スサント(インドネシア、世界11位)
リッキー・ウィディアント/プスピタ・リチ・ディリ(インドネシア、世界9位)対シン・ベクチョル/チェ・ユジュン(韓国、世界163位※予選勝ち上がり)
リー・チュンヘイ/チャウ・ホイワー(香港、世界8位)対ロナルド・アレキサンダー/メラティ・ダエバ・オクタビアニ(インドネシア、世界24位)